2015年4月15日水曜日

脳で浮気心をコントロールしうる神経伝達物質、バゾプレッシン

周囲の状況により関心の対象が変わるのは人として自然なことですが、大切な時はパートナーには一人の人間に集中してほしいもの。なぜ関心が移ろうのか、移ろう瞬間脳には何が起こっているのか、それを解明しようと以下の様な研究が行われたことがあります。

浮気症と一途な性格の比較

まず、浮気症とそうでない性格に明確な区別があるのか、研究にあたってはこの差が重要になります。おもしろいことに、ハタネズミは体の構造は似通っていながら、住む地域によりその行動に明らかな差がみられます。草原に住むハタネズミは出産後、雌雄共に1つの巣に居住し、お互い協力して長い間子供の世話を見る一方、山地に住むハタネズミは出産後、男は子育てをまったくせず、女もまた子供が自立する前に限り子育てを行うという特徴があります。

男を一途にする物質とは?

この性格の違いはどの様に生まれるのでしょう。脳の研究において、この問題を究明していく中で神経伝達物質の一つであるバゾプレッシンに注目が集まりました。バゾプレッシンはニューロン(神経細胞)間の情報の伝達に使われる物質の一種で、また同時に体内の血圧の降下と塩分濃度の上昇をきっかけに脳内の視床下部で血中に放出される物質です。

他の神経伝達物質の受容体の分布は草原に住む個体と浮気症の山地に住む個体の間で差は見られなかったものの、バゾプレッシン受容体の分布には草原に住む個体は一箇所に集中している一方で、浮気症の山地に住む個体では幅広い箇所に分布*1していました。

また驚くことに、草原に住む雄に新しい雌と出会った時にバゾプレッシンを投与すると、通常は交尾の後に雌と強い絆を形成しますが、この時は交尾することなしに強い絆が生まれたそうです。

まだ研究は未解明な部分が多いものの、この傾向は人間でも見られる様です。脳の状態をfMRIを使い調べてみると、母親が自分の子供の写真を見た時、脳内のバゾプレッシン受容体を多く含む部位が活性化された*2一方、知人の子供の写真ではバゾプレッシン受容体の活性化はみられなかったそうです。



*1 分布図: Young LJ, Wang Z, Insel TR. 1998. Neuroendocrine bases of monogamy. Trends in Neurosciences 12:71-75
*2 同様の研究がすすめられているオキシトシンの受容体にも同じ様な活性化がみられた。

[学習メモ]

[参考文献]
Mark F. Bear, Barry W. Connors, Michael A. Paradiso, 加藤宏司(訳), 後藤薫(訳), 藤井聡(訳), 山崎良彦(訳), 金子健也(訳)『神経科学 脳の探求』西村書店 2012

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